Writings



Alex & AKI + 金大煥 at 下北沢アレイホール (Mar.18,2000)



3月18日(土)東京、下北沢アレイホールでのライブ。 《ベルリン・コネクション−ピアノ・デュオ&パーカッション−》とタイトルされたこのライブは、 Alexander von Schlippenbach(p)、高瀬アキ(p)、それにゲストで金大煥(キム・デファン)(d, perc) が参加するという顔合わせ。前半アレックス&アキのピアノ・デュオ(連弾形式)、 後半に金大煥のソロに始まりそれぞれの組み合わせ、もしくは3人での演奏という2ステージ構成。 アレイ・ホールはこじんまりとしたホールで演奏スポットをぐるりと60人ほどのお客さんが囲み、 演奏をとても身近に感じるなかなかいい雰囲気だった。 天井が低く音の伸びに欠けるのがちょっと残念。




前半ステージはアレックス&アキ・ステージ。 それぞれの曲を高域低域側入れ替わって2曲を演奏。 そしてアレックスのソロ、高瀬アキのソロと続き、最後にデュオによる演奏だった。
まず一曲目は《Bagatelle I》。バガテルは楽曲の一形式で19世紀初期の鍵盤小ピースのことだが、 それに相応しくポロポロと点在する音から始まり、プリペアド絡んで行く。 点在する音が徐々に増え空間を埋めていく展開に強いテンションを感じてしまう。 曲の後半は低域高瀬アキの駆ける打鍵にアレックスの高域が呼応し仕上げを入れるという感じだった。 再び点在世界へと立ち返り曲を終える。
続いてアレックスの曲で《Na, Na, Na, Na...Ist Das Der Weg?》。 アレックスとのデュオCDにも収録されている曲。ここでは高瀬アキが高音を務める。 連弾形式だというのでやはりそれぞれに表現の制限が出てくるのではないかなどと考えもしたが、 お互いの手が相手の鍵盤領域になだれ込む技、幾重にも積み重なるようなファブリックな音には恐れ入った。 心の中でひたすらに「すごい!」を連呼していた。そして後半、徐々に音のカタチとなって表れたのは なんと、ディズニー『白雪姫』の《Heigh-Ho》。
それぞれが一曲ずつソロを。アレックスのソロは《Improvisation I》。 アレックスのピアノはつねに考え練られて構成が複雑になっているように聞こえる。 音の重ね方もとてもデリケートに思える。それがむしろ聴き手を構えさせるのか、 聴いているとけっこうマヂになる。 しかし、タッチ・響きも含めて曲自体が優しく包み込むように聞こえるのはなぜだろう。 束の間《Bemsha Swing》が顔を覗かせたように聞こえたのは私だけであろうか?
替わって高瀬アキのソロはカーラ・ブレイの《Ida Lupino》。 アルバム《Shima Shoka》にも収録されている曲だが、データベース中野洋一氏によると 「1920年代から30年代にかけてアメリカ映画で活躍したイギリス出身の個性的な女優 アイダ・ルピーノに捧げてカーラが書いた曲。アイダ・ルピーノ(1914-)はイギリスの有名な舞台のコメディアン、 スタンリー・ルピーノ(1893-1942)の愛嬢として生まれ、1940年代後半には監督に転出したたいへんな才女」なのだそうだ。 耳に馴染んだ清々しいメロディとそこから展開していく「その日」のインプロヴァイズを存分に楽しんだ。
前半最後の曲はふたたびアレックス&アキ・デュオでの演奏で《Vista》。軽快な連打鍵で舞を披露してくれた。




後半は金大煥のソロからスタート。スティック(マレットとでも言うのか?)を手に3本ずつ両手に6本、 それで手を複雑に返しながらさまざまなパーカッションを叩く奏法はじつにユニーク。 実は1992年ロマーニッシュ・カフェでの高瀬アキ、井野信義、金大煥のセッションの印象が強く残っていて、 きっと今回もそれに近いものがあるのでは、との予感もあった。そう、ダダダダ的音洪水。 しかし、今回の金大煥は驚くほど大人しかった。 むしろ合わせている感も、いや、入るスキがなかったとも言えるのかもしれない。
ここから高瀬アキvs金大煥で《Shima Shoka》、アレックスvs金大煥で《Improvisation II》。 対照的な演奏を聴かせてくれた。 《Shima Shoka》は金大煥のしばしのソロに高瀬アキが割って入る。 音的には合っているはいるものの、インタープレイとしては成り立っていなかった感は否めない。 むしろ、金大煥が音をなんとか埋めているような付随的な感じもしなくもない。 それでもしっかりと曲をしめた。 辛口に書いているようだが、じつは高瀬アキとプレイする太鼓はけっこうたいへんなのだ。 《Clapping Music》でのSunny Murrayにもその傾向のあったことを思い出す。 アレックスのソロ《Improvisation II》でも金大煥の印象は同様だが、 音の勢いや行方が掴めないだけにかえって戸惑い気味で平坦になったようだ。
そして、ラストは《Morlocks》。 プリペアドの準備、つまり金属皿とピンポン球を並べているとき、 オーディエンスは席から立ちあがってピアノの中を覗き込んでいた。プリペアド奏法、 それも直接弦を弾くばかりでなく、 撥ね回るピンポン球奏法を初めて目の当たりにした人はさぞ驚いたことだろう。 そして、それらがいかに面白い音を奏でてくれることを。 この曲はもとはBCJOで演奏した曲でその曲名がアルバム・タイトルにもなっているが、 アレックスとのデュオは1993年の《Piano Duets》に収録しており、お気に入りのひとつ。 それもライブのものだが、とにかくオネゲル機関車も比にならず気迫の演奏、 曲が始まるやいなやゾクゾクとくる。どんどん気分が高ぶってくる。 ピアノ1台の連弾でなんでこれほどの音が迫り来るのか? そのスリリングな曲を今目前で演奏している。なんと感慨深いことか。 揺れ動く金属皿と生き物のように跳ね回るピンポン球と、視覚にもその勢いを堪能し、 いったいどこまで突き進むかと思えた曲もやがて停車駅を迎える。 あまりのテンションの持続が20分近くにも及んだこの演奏を僅か数分の出来事のように見せた。 感動。





アンコールに《至上の愛》、いや、《詩情の哀》と表記するのが正しいのかもしれない、、、 からのフレーズも折り込んだインプロヴィゼーション。

終演後、ホールにて来場の方全員へワインとチーズのもてないしがあり、 美味しくいただきながら和やかに歓談。 このホールでいろいろな方々との繋がりがさらに交差し発展もしていた素敵なひとときでもあった。

Set List
Stage #1
1. Bagatelle I / duo
2. Na, Na, Na, Na...Ist Das Der Weg? / duo
3. Improvisation I / solo by Alex
4. Ida Lupino / solo by Aki
5. Vista / duo

Stage #2
1. Improvisation / solo by Kim Dae-Hwan
2. Shima Shoka / Aki & Kim
3. Improvisation II / Alex & Kim
4. Morlocks / duo + Kim
#Encore
-. Improvisation - Dedicated to Mr. Shikata

小川拳 / Mar.25.2000



Last Revised : Mar.25.2000