Live Schedule


シアターχカイ チェーホフ演劇祭 番外公演

高瀬アキ(ピアノ)+多和田葉子(朗読)のパフォーマンス


『ピアノのかもめ/声のかもめ』

(チェーホフの作品より)


珠玉の一夜、アキのピアノと葉子の声が「チェーホフ」の言葉をリズムにのせて、 軽快だけれど不調和な連想を抱かせる不思議な秋のステージ。


銀河をこえて、砂漠をこえて、途中、ロシアの水辺でチェ−ホフを餌にして、 二羽のかもめがドイツからやってくる。時に傷つけ合い、時に深くいたわり、 二羽のかもめは女優のように並んでいます。


2001年9月1日(土)夕刻7時開演(開場30分前)
劇場 シアターχカイ(両国)
ゲスト:島田雅彦(作家)予定
入場料(前売・当日共)3,500円(全席自由)
◎お問合せ シアターχカイ
〒130-0026 東京都墨田区両国2-10-14
tel:03-5624-1181 fax:03-5624-1155



高瀬アキ(たかせ・あき) 多和田葉子(たわだ・ようこ)
”アメリカの秋吉敏子・ヨーロッパの高瀬アキ”と並び称せされるピアニスト。 ベルリンを拠点にシュリッペンバッハと共にベルリンコンテンポラリージャズオーケストラを率いて活動するほか、 ヨーロッパ各地でポルトガル歌手(マリア・ジュアン)・サックス奏者(デビッド・マレー)・ クラリネット奏者(ルディ・マハール)などとのコラボレーションを意欲的に手掛ける。 ドイツ批評家レコード賞、ベルリン新聞文化批評家賞を受賞し、国際的に評価される。 CDに"Shima Shoka" "Plays Ballads of Duke Ellington" "Blue Monk" "Duet for Eric Dolphy"。 新譜"Le Cahier du Bal" が英国のLEOレーベルから絶賛発売中。 今秋にはフレッド・フリス等とのCDがドイツのENJAレーベルより発売予定。 作家。ドイツ・ハンブルグを拠点に世界各地で執筆活動を展開し、 ドイツ語と日本語で作品を書く。 ドイツでは朗読会などを通して、読者との対話を大切にしている。 演劇ではドイツ・ハノーバー演劇工房や日本の劇団らせん舘の 『TILL』 『サンチョ・パンサ』などを書き下ろし、シアターχでも上演。 『かかとを失くして』により群像新人文学賞。『犬婿入り』により芥川賞。 バイエルン芸術アカデミーからシャミッソー文学賞を受賞するなど海外でも高く評価されている。


シアターχ チェーホフ演劇祭 番外公演


/第1部/
1. チェーホフの音:桜の園−三人姉妹−かもめ
2. かもめトランプ
3. じゃんけんカモメ
4. ひとり朗読
5. タンゴでカモメ
6. 架空の手紙 カモメブルース
7. 干しぶどう入りのカモメラップ
/第2部/
1. 島田+高瀬 デュエット
2. ケープタウンは夜の映画館
3. 音楽の病院
4. ネジ式新枕草子
5. かける
6. たま
7. 氷菓子
8. 島田+高瀬+多和田 トリオ


今回のイベントは、2001年10月29日〜12月6日まで開催される『シアターχチェーホフ祭40日間』の番外編として、 シアターχが多和田葉子さんに委嘱し実現したもの。ステージは第一部、第二部に分かれての公演。
(※写真は前日のリハーサルのものを使用しています。)




銀座のジャズ喫茶から借りてきたという手回し蓄音機でSPをかけて最初のステージが静かにオープン。 多和田葉子の《チェーホフの音、桜の園》の朗読が始まり、それに徐々に高瀬アキのピアノが絡み始める。 朗読の一節が終わるとピアノが駆け回りだす。《三人姉妹》、《かもめ》。いずれも同じように、 多和田の朗読を受けて高瀬アキがひとしきりピアノを奏でるものだ。 《かもめトランプ》では朗読とピアノが終始絡み合う。朗読の中に高瀬アキが数字を読み上げ、 数字の意味を埋め込んで行くというもの。同じようなアイデアで、 《じゃんけんカモメ》はふたりでじゃんけんをして、その勝敗で朗読またはピアノ演奏をとる趣向。 シアターχネタも盛り込まれているのが笑わせてくれる。引き分けの場合はふたりで、だったかな? 多和田葉子の「ソロ」《ひとり朗読》、「私はカモメ」。 続く《タンゴでカモメ》でふたたびデュエットで。言葉の重みとピアノの響きの重みがの絡み合う。 ここでお客さんにいくつかの手紙を選んで貰い、その内容を朗読するというもの。 これが《架空の手紙 カモメブルース》の前半を占めるのかはよく判らないが、 後半に力強い語気の朗読と音階的繰り返しのピアノでディエットする。 《干しぶどう入りのカモメラップ》では会議机にふたりが並んで、 机と手拍子で複雑なリズムを取りながらラップさながらの言葉の連続。 言葉もピアノも、そしてこうした手拍子もすべてが間違いなく音楽の、 音の要素であるということを改めて教えてくれる。




第二部は、島田雅彦+高瀬アキの顔合わせデュエットでスタート。 テーマは島田雅彦朗読による「女性遍歴」でそれにピアノを効果音的に入れていく。 朗読は「笑い」を狙った内容で、聴衆もそれなりに期待に応えていたようだった。 《ケープタウンは夜の映画館》。多和田葉子+高瀬アキのおしくらで、 ここで多和田葉子はカリンバ(親指ピアノ)を奏でる。 《音楽の病院》は昨年8月下北沢アレイ・ホールでも演奏していた曲。 高瀬アキが左手によるプロンプタを勤め、その指示により音・朗読表現が変わっていく。 静かなる表現、憤った表現、棒読みの表現などさまざまな変化をつけて移ろっていく。 《ネジ式新枕草子》で初めて高瀬アキはプリペアド奏法を聴かせる。 金属皿をピアノ弦に乗せ幻想的な雰囲気を醸し出すようなピアノ表現。 《かける(かけるもの)》も昨年夏に聴いたものだ。 多和田葉子の朗読の中の「かける」という言葉だけを高瀬アキがボイスする。 その声の切り貼りがじつに面白い。 《たま》もプリペアド奏法。面白いのは多和田葉子が朗読をしながら、 ピンポン球を次々とピアノの中に放り込んでいくところだ。 放り込まれたピンポン球は打鍵されるピアノ弦の力で小さく、ときに大きく跳ね踊る。 演奏後に聞いた話だが、ピンポン球もドイツ製、日本製で跳ね方がずいぶん違うという。 そして一番いい跳ね方をするのが中国製だそうだ。 ここでメランコリックなピアノから移ろってクラスターに近い激しいピアノへと演奏が展開する。 馴染みの《氷菓子》。多和田葉子のドイツ語日本語混在の朗読におろし金、 それに高瀬アキのピアノ。曲後半ではなんとBJCOの《The Morlocks》をバックにピアノ打鍵する。 ステージのクライマックスに相応しい音の洪水だ。 最後に島田+高瀬+多和田トリオによるパフォーマンス。 プロンプタ高瀬アキに指示で島田雅彦と多和田葉子が不規則に交互に、 時には同時に朗読する。グレン・グールドの『北の理念』を想起させた。




今回は企画ものとして高瀬アキと多和田葉子ふたりによってかなり練られたものだった。 それは、朗読や詩のパフォーマンスばかりでなく、 進行やライティングなどの演出にも面白さの仕掛けが盛り込まれていた。 実際に前日の打ち合わせでも細かいところまで指定していたし、 蓄音機でかけるSP曲でさえも最後の最後までこだわいた高瀬アキの姿に恐れ入った。 結果、それら音響や演出がどれだけ演奏者の目指したところに追従できたはさておいて。
そして、高瀬アキはやはりすごい音楽の創り手だと思った。 たとえば、それが朗読というスタイルだとしても、それを音の要素として取り扱い、 音として仕上げてしまう。だから面白い音楽になる。 表現は難しいが、高瀬アキの作り出すものは音が構成した音楽なんだということ。 だから今目の前で鳴っている音、それ自体が面白い。ワクワクする。 かつて音のおもちゃ箱として大いに感動した《天衣無縫》で貫かれていた音の面白さがちゃんと息づいている。 《Shima Shoka》で散りばめられていた音のキラキラも健在。 とにかく嬉しいひとときを過ごせた。



Ken Ogawa / Sep.22.2001