Writings

TUC Days with Aki Takase (1)


黒田京子 さんから岩本町TUC《高瀬アキ&黒田京子ピアノ・デュオ》ライブの速報が入ったのが 6月15日のこと。それからずっと心待ちにしていたライブ。そのレポートをオフステージ部分を含め、 そして黒田さんのダイアリーを交えながらフラッシュバック・ページにしてみました。


8月18日

20日のライヴ打ち合わせのために、急遽高瀬アキさんが今晩家に泊まることになったので、 朝から家の掃除をして買い物に出た。それから自分が提案する曲について譜面を書き直したり、 まとめたりの作業をして夕方になる。

夜、8時頃にアキさんを府中の駅まで迎えに行った。 アキさんは緑色のあでやかなワンピースを着ていて、すっかり髪を短く切っていた。 自分で「ワカメちゃん」と言っていたけれど(笑)。それから食事をしながら、 あれやこれやと話をして夜も更けてしまい、結局ほとんど打ち合わせはしなかった(^^;)。 で、翌朝リハーサルをすることになった。なんでもアキさんはベルリンでは、 毎晩遅くとも10時半には床に就き、毎朝6時半前には起きているのだそうだ。 む、む、昔のアキさんからは想像できましぇん(苦笑)。


8月19日

多分2〜3時間しか眠れず、朝8時半頃に起きた。 上で寝ていたアキさんも、暑くてずいぶん遅くまで眠れなかった様子だった。 朝食を済ませた後、軽く1時間半くらい打ち合わせをした。1台のピアノで、 モンクの曲などについて大まかなアイディアやコンセプトを実際に音に出してやってみた。
アキさんを府中駅まで送って行って、それからピアノの練習。 モンクの曲「Four in one」をCDをかけながら、何度も弾いてみる。これがなかなか難しい。


いつも通り仕事へ。ジ○リのサーバー・ディスクアレイ間障害がなかなか解決を見ないまま。 今夜は高瀬アキさんと大澤香織さんのピアノデュオ・ライブが岩本町TUCであるので、 都合がつけば何とか出掛けて行きたい。午後、黒田さんのところへ電話し、 夕方に府中駅で落ち合う約束だけはしておいた。あとは飛び込みの仕事のないことを祈るばかりだ。

夜は岩本町TUCへ、アキさんと大沢香織さん(p)が、井野信義さん(b)も交えて演奏するのを聴きに行った。

《 TUC PIANO2 (DOUBLE PIANO) NIGHT 》2日目は、 高瀬アキ&大澤香織デュオ・ライブ、それにゲストとして井野信義が参加。 エリック・ドルフィーとそれぞれのオリジナルを数曲持ち寄っての構成、 後半ステージ最初には高瀬&井野デュオも加えられたライブ。

師弟対決というよりも寛大なる母が支える低域循環の上で安堵に満ちた子が思う存分駆け回る音構築。 次へのお題のキューを送るのはたいがいは高瀬さんの方であったようだが、 こうきたらどうする?ならばこれで応えよう!というインタープレイがぢつに面白いものだった。 そこに感じられたのはむしろ大澤さんの師に対する深い尊敬の念だったのではないかと思う。 大澤さんのタッチも師以上の凄みを見せてくれる。じゅうぶん暴れ馬だ。(^^;) 観察するに、大澤さんはずいぶん椅子を高く座っている。それが音に力を与えているのかもしれぬ。 華麗繊細に駆けるスケール、連続したブロッキング、打ち落とされる肘鉄奏(クラスター)法の掛け合いを存分堪能。

井野さんが参加してのチューン。高瀬さん&井野さんという往年の強力コンビ、 大澤さんもさすがに割って入ることはキツかったかなぁ? まぁ、そこはきっと大澤さんご本人が一番納得されていることでしょう(笑)。 寛大な父親の参加といったところか。

馴染みの高瀬さんのオリジナルに喜び、井野さんのいつものアルコ弾き重低音にはやはり痺れた。 "わが心のルネッサンス"のコード進行ありました?あれは何という曲だったのでしょう?(^^;)
それにしても1台ピアノの音があまりに音抜けが悪かったようで、それが唯一残念。


まず2台のピアノの楽器の問題を真っ先に感じる。既に両方とも調律がきちんと整っていないように感じた。 演奏すればするほど、その狂いが目立ってくる。そしてそこから出てくる音の立ち方がなんだかよくない。 それでもアキさんが最初に弾いていた、正面右に据えられたヤマハのC3のピアノ(新宿ダグにあったピアノ)の方が、 こちらにはよく立って聞こえてくる。左の同じくヤマハのG5のピアノの方が、 だいぶもごもごした響きに聞こえてくる。弾き手の問題なのか、楽器自体の鳴りが問題なのか・・・。

そしてピアノデュオの難しさを痛感した。デュオでフリーになると、 何がなんだかごちゃごちゃとしているだけにしか聞こえてこない。これは相手の音を相当聴いて、 音程や音域、強弱などのバランスを、かなり考えながら演奏しないとうまくいかないように感じた。 ピアノ2台で演奏することの意味とはなんぞや?

主に、この2点について、 明日は我が身かと思った私は頭を抱えてしまい、夜はなかなか眠れなかった。

で、演奏はまずエリントン・メドレーから。「In a mellow tone」「I got it bad」 「In a sentimental mood」「Caravan」と続いた。始めちょろちょろという感じだっただろうか。 その後はフリーで1曲。そして井野さんが加わって、サニー・マレーの曲、大澤さんの曲と演奏されて、 1stセットが終了。

2ndセットはアキさんと井野さんのデュオで3曲。 長い付き合いになるこの二人のデュオは、時間軸に沿って、ぐっとその世界が広がり、 濃かった気がする。こういう時間の流れを前半では聞くことができなかったように思う。
それから大澤さんが作曲した「Optimism」というブルース。これは作曲者のキャラクターがよく出ていて、 なかなかよかったと思う。そしてドルフィーの曲が2曲演奏されて終了。

アキさんに聞くと、大澤さんのピアノのタッチはなかなか強いということだったが、 こちらで聞いていると、アキさんのタッチの方がどうも何故か立って聞こえてきた。

また、ベースが加わったものについては、その上で何故ピアノが2台必要かという、 そのサウンドの必然性は見えてこなかったような気がする。先にごちゃごちゃと感じたのは、 おそらくその辺がクリアになっていなかったこともあるように思う。
(ちなみに、私の方のセットにも誰かもう一人という案もあったのだが、 私はデュオを望んだので、結果的にはそうなった。)

ともあれ、 アキさんと大澤さんのピアノは充分に堪能できた一夜だった。


ステージの合間にジャズ評論家の横井一江さんと初お目通り。 ライブ終了後のTUCで軽く打上げ&お食事。黒田さん、大澤さんらアキさんの門下の方々との談笑。 アキさんと井野さんのまるで小学生のような掛け合い(失礼!)に、アキさんの横に座りながら ヘラヘラ笑っておりました。往年のセッション・コンビであることを、そんな会話の中に痛く感じていました。 もちろんお二人のお人柄でもあります。

話題の中心はやはり2台のピアノの鳴り、明日はそれをどのように克服するか?だった。 いろいろ話した結果、明日は中央に2台のピアノを置くことに決まる。

気がつくと終電時刻ギリギリ。黒田さんとJR神田駅までダッシュして何とか間に合う。 こうして、TUCライブ初日はアキさんとの楽しいひとときも加えて無事終わったのでありました。 お茶の水で地下鉄、京王線で帰るという黒田さんに「眠りこけて乗り過ごさない様にね〜」と冗談を言いながら別れる。 そういう時にかぎって、なぜか寝過ごしてしまうのが人生というものだが、 果たして黒田さんの場合は、、、。(^^;)



8月20日

朝8時に起床。昨晩、エトヴェシュ《ゴルトベルク変奏曲》のライナーの件で、 評論家宮澤淳一さんとのメール・スレッドがあり少々寝不足。原稿締め切りがこの20日だったのだ。 それでも休暇日の朝は心地良い(爆)。
黒田さんの楽器運び&送迎のためクルマで出立。ピックアップ10時半の予定だったが、 黒田さんのところに少々居座って(^^;) 音楽室を覗き込む。 書棚にグレン・グールドの書籍タイトルなど見えて密かにニヤける。


朝9時に起きて、ぼうっ〜としてからシャワーを浴び、 あまり食欲がなく、またぼうっ〜としているうちに、 10時半に今日終日私の鞄持ちをしてくれると言ってくれた友人、 四方さんが車で迎えに来てくれた。楽器を積み込み、いざ出陣(笑)。 エアコンが全然効かない車と化していたけれど(^^;)、風が心地よく、 ポリーニのCDなどを聞きながらの道中。道はちょっと混んでいて、 予定よりも遅く家を出たこともあって、約束の時間に少し遅れて、 アキさんの滞在しているホテルに到着した。

お茶の水への道中、BGMのポリーニCDはストラヴィンスキー《ペトルーシュカからの3楽章》。 ワイセンベルグ盤とともに好きな一枚だ。「やっぱり巧いよなぁ〜」とひとこと洩らす黒田さん。 本日録音をしてくれることになっている岡崎さんを連絡入れ、本日の段取りを確認する。 リハ中にマイク位置や音レベルのチェックに来る手はず。 キング・レコードからエトヴェシュCDの件で電話あり。有難いお話。 しかし、エアコン不調で暑い夏を満喫。

渋滞のためお茶の水のホテルに20分ほど遅れて辿りつく。 ロビーにラフな姿で現れたアキさんと《Out To Lunch》。小川軒は予約なしのため門前払い。 それでも交渉するアキさんにクラスター奏法の源を感じておりました、はい。(^^;) あ、 この小川軒というのは人の名前ではありませんのであしからず(笑)。

ホテルに戻って一階の和食レストランでアキさんに鰻をご馳走になる。ご馳走様でした。 ここでのアキさんの話がすこぶる面白かった。 ヨーロッバ・ツァーでのさまざまなエピソードはずいぶん笑えました。 クルマでの移動で休憩したトイレに鞄を忘れ、何時間もかけて取りに戻った話。 『ダルセーニョ・アキ』という言葉を生んだ出来事でした。 オーマガトキ・ユニットでのツァー談、こちらも面白かったですね。 アキさんは、ここ数年の日本ジャズの様子を黒田さんに尋ねておいで。 やはり、この辺りはアキさんの大きな関心事のひとつでもあるようです。

この話題は場をホテル・ロビーのカフェに移して、なおも継続。 イタリア・ツァーでのマリア・ジョアさんとのエピソードは、 蚊の大群の中で何とかステージをこなしたというもの。 アキさんの話に黒田さんともども大笑いしてはいたが、想像すると背筋がゾッとするなぁ。 リハ開始時刻が迫って、その簡単な打合せをしてTUCへ向かうことに。


それからアキさんに鰻をご馳走になり、 元気をつけてからTUCに行った。今日はそのピアノのセッティングを、小屋の真ん中にして、 それを囲むように座席を作ることにした。6時近くまでリハーサルをし、前半はすべてモンクの曲で、 後半はそれぞれのソロも交えて、即興などをやることにする。

リハーサルをしていて気がついたのは、実際にピアノを弾いてみて、 その2台がまったく別の響き方、聞こえ方をするということだった。 G5を自分が演奏していると、相手のC3の音がよく聞こえないのだ。 これは昨晩客席で聞いていたのとはまったく逆の現象。 要するにそれぞれのピアノの鳴り方がまったく違うのだ。


ピアノの鳴りの問題を如何にせんとの作戦も含めて、スコアを見ながら打合せをするアキさんと黒田さん。 それぞれの曲のシーケンスなど打合せするも、私などからすればかなりラフな決め方に驚く。 「これがジャズだな」と変な感慨もあったりする。刻々と移り進むインタープレイはまさに生きた会話。 だから、綿密なお膳立ては意味がないのかもしれない。むしろ、流れの妨げにさえなるのではないかとも。 たいがい最後には、 アキさんから「ま、本番になったらどうなるか判らないし、そんな感じでいきましょう。」の締め言葉。

リハーサルでの演奏は素晴らしかった!正直言って、胸がツマった。
もちろんリハだから、途中で幾度も演奏が中断し打合せが入るわけだが、 何の桎梏もなく自由に弾き進めるピアノ・デュオはとても生き生きしていたし、何よりも楽しく会話していた。 ライブ・ステージに感動した方々には申し訳ないと思いつつ、 このリハに接することが出来た私はなんとまぁ幸せなことか。 それは音のチェックをしていた岡崎さんも同じだったらしく、 ぜひ家族にも聴かせたいとすかさず予約をしていましたよ。 私にとってもっとも嬉しかったことは、こうして密に疎に長年ずっと聴いてきた高瀬アキの音楽世界が 自分にとってはやはり最良の音楽に違いなかったことの再認識、その喜びである。 だから秘めた言葉を持った。「ありがとう、アキさん」と。


演奏が始まるまで、アキさんたちはお蕎麦を食べに行ったが、私は楽屋で一人で過ごす。 多分少し緊張していたのだろう。

演奏直前に秋葉原まで買いに走ったコードで延長しマイク設置。ここでトラブル。 コードが長すぎるせいかどうしてもノイズが入ってしまう。あわやのところで英断、マイク位置を変更する。 いやいや、岡崎さんお疲れ様でした。(^^;) 楽屋では横井さんが打上げ宴の会場探しで電話攻勢。 アキさんと黒田さんは最終的な確認。


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Last Revised : Sep.19.1999